朔の月
注意)一部本編のネタバレを含みますのでご注意下さい。
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景虎は育ての親の狼の王に呼び出されていた。
「そなたも、そろそろ17だ。そなたは人だ。我らとは違う。人の世を知るのもまた道理。里に下りなさい」
景虎が山で王に拾われたのは、生まれて間もない頃だった。それから、人の世を知らず、王が治める群の中で育ってきた。そしてこれからも群で生きていくのだと信じていた。
なのに、突然の王の言葉に景虎は驚いてしまう。
「なぜですか!? オレが……――人のオレは邪魔ですか?」
景虎の必死に縋る言葉に、王は慈愛の瞳を向ける。
「そうではない。そなたの里はこの群だ。それは、そなたが死ぬまで変わらない。もう駄目だと思ったら、いつでも帰ってきなさい。けれど、そなたは人に生まれたのだ。人に生まれ我らに育てられた、それも天命だったのだろうが、そなたが人であることも、これまた天命。人に生まれて人の世を知らぬのは不幸なことだと、私は思う。だから、そなたは一度里に下りなさい」
尊敬して止まない育ての親にそう言われては、景虎も是と言うしかない。本心では群にこのまま居たいと叫びながら、その日、群を後にした。
けれど、普段山を長距離移動するときには王の背中に乗せてもらっていた景虎の脚では、里に下りるだけでも大変なことだった。休み休み進みつつ里を目指している途中夜になり、運悪く嵐に出会ってしまった。
森の中、身を潜める場所も見つからず、ジッと大木の陰で嵐が過ぎざるのを待っていたのだが、一向に嵐は過ぎ去る気配がない。 その上、雨まで降り始め、留まるのと進むことどちらがマシかと考えたとき、景虎は進むことを選んでいた。
けれど、風に煽られ、雨に打たれ、次第に体力を奪われていった。そうして、景虎の記憶の最後は、雨が止み安堵したことで途切れている。
景虎の次の記憶は、見知らぬ誰かの屋敷の中に繋がれ、寝かされていたところから始まる。
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