月光
「景虎!右っ」
レーザーガンの光が高耶の右頬を傷付けながら背後の壁を焼く。
「どこからの攻撃だ!?」
「Dセクション上方からです」
「荷は!?」
高耶は素早く周囲を見渡して、安全を確保する。
「強奪完了です」
「OK。全員退去だ」
「了解」
皆で今日の戦利品をアジトで広げながら、仲間の負傷状況を確認する。
「軽傷はリーダーを含め三人。その他全治二ヶ月の者が一人。以上です」
「上出来だな」
高耶は部下の言葉に頷く。
「向こうの被害状況はどうなっている?」
「確認できた限りではDゲートは全壊で、現在復旧作業中です。その他内部の復旧も一週間ほどかかるのではないかと予想されます。あと、メンバーへの聞き取り調査の結果、あちらにはおそらく死傷者が出ています。感触としては二、三人は死んだものかと……」
「そうか……ご苦労。皆にゆっくり休むように伝えてくれ」
「はい」
無事全員の生還を確認できた高耶は安堵の溜め息を吐く。若干十七歳の少年に掛けられる期待は、高耶の許容量を超えていた。しかし、それに応えようと必至に努力する高耶の苦労は外には現れず、日に日に期待は高まる一方でしかない。
アジトを抜け出し高耶が向かうのは、旧世界の名残を色濃く残す廃墟だ。崩れかけた建物の階段を上る。ここは誰にも知られていない、高耶にとっての息抜きの場だ。黒い雲に覆われた上空。その隙間からわずかに零れる月明かり。伝わる話では、旧世界では丸く発光する月がみえたという。地球と月の位置の関係で満ち欠けする月に、人々は思いを馳せた時代もあったらしい。今は、わずかにその光が零れるのみだ。だが、暗闇に雲間から零れる光を見ていると、次第に心が落ち着いてくる。
高耶が静寂を味わっていると、階段を上ってくる人の足音が聞こえてきた。
「誰だっ!?」
高耶の誰何の声に聞き慣れない声が聞こえてくる。
「――これは…先客ですか?」
背の高い男だ。しかし、薄明かりのもとでは相手の顔など互いに確認できない。
「あんたは――?」
「月明かりに誘われて、廃墟に登ってみれば、まさかこんなところに人がいるとは思いませんでした」
近づいてくる足音に、高耶は警戒をしながら様子をうかがう。
「オレもこんなところに来る物好きは、オレだけだと思っていたよ」
高耶は相手に殺気がないことを確認しつつ応える。
「お互い、人に知られたら笑われそうですね」
男が高耶に歩み寄る。
「隣、いいですか?」
「ああ」
男の言葉に高耶は頷く。
高耶の横に腰を下ろす気配に、衣擦れの音が響く。
高耶がなかば盗み見た男は、わずかな月明かりに反射した襟章によって、政府軍の人間だと知ることが出来た。だが、男には高耶の身元が知れることはないだろう。暗がりで顔さえわからない中、高耶は身元のばれるものを一切身につけていない。
しかし、万一高耶の素性がばれたとき、ここは廃墟の中で仲間が助けてくれることは絶対にない。ほぼ丸腰に等しい高耶が助かる見込みは皆無であるため、高耶は注意だけは怠らないよう緊張感を保つ。
「オレも友人にばれたら頭がおかしくなったのか疑われそうだ」
お互いに喉で笑いつつ、静寂を楽しむ。
「いかがですか?」
男が瓶の中身を一口口に含み、その瓶を差し出してくる。高耶が受け取り臭いを嗅ぐと、アルコールの香りが漂ってきた。
「いいのか?」
「一人で飲んでも美味くない。月見酒と洒落こみましょう?」
「ありがとう」
高耶は瓶の中の液体を一口煽り、男に返す。それを数回繰り返しつつ、相手の息づかいと、偶に煽る酒を嚥下する音以外ない静寂にわずかな風が通りすぎる。
お互い会話を交わすことなく時が過ぎていく。
一時間以上はそうしていただろうか。突然静寂を突き破るアラーム音が鳴る。
高耶はそれに驚きを感じつつ、発生源だろう男に視線を移す。
男は、腕に付けているのであろうコンピュータを操作し立ち上がる。
「そろそろタイムオーバーのようです」
「そうか」
見上げた顔は、しかし互いの表情がわかるはずもなく。
「いつもここに?」
高耶はどのような意図での質問かは掴めないながらも、思いがけず気持ちよい一時を過ごすことが出来たことに気をよくして答える。
「いや、偶に気が向いたときに来るだけだ」
「いい場所です。またお邪魔してもいいでしょうか?」
その声色に、男にも何かしら感じることがあったのだろうそれが滲んでいる。
「オレの土地じゃない」
高耶はからかい気味に返事を返す。
「そりゃそうだ」
男にも意図は伝わったのだろう、「また」と残してその背中が去っていく。
そして戻ってくる、男が来る前とも、いたときとも異なる静寂。高耶はどこか寂しく感ている。一人になりたくて来ていたはずの場所で、敵であるはずの男と過ごした時間を惜しく感じるなどどうかしていると思いつつ、あの男と過ごす時間がまたあればよいと思う自分に高耶は自嘲する。
雲が増えたのか次第に月明かりが薄れてくる。闇が何もかもを包み込もうとしていた。
微妙に気に入らないところがあるのですが、アップ。しばらく日を置いてまた見直してみます。
雰囲気小説とでも言いましょうか?こういうの書くの好きです。気が向けば一話読み切り形式で連載するかもデス。何となく先もイメージがあるので、書こうと思えば掛ける気がします。
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