Backgroun by cool moon

シャワーを浴び、二人そろって浴室から出る頃には、日付も替わろうとしている時間だった。
「もうちょっとだな……」
高耶は掛け時計に視線を走らせて言った。
「ええ」
直江は、いかにも満ち足りていますといった表情だ。
「俺は世界一の幸せ者です。こうして、誕生日をあなたと過ごせるなんて」
衣服を身につけた二人はケーキを前に畳の上に座り、直江は高耶を後ろから抱きしめながら言った。
「あっ……」
ついに日付が替わる。
「誕生日おめでとう、直江」
「ありがとうございます」
「お前がこの世にいてくれることを、俺は世界に感謝する」
噛み締めるように言う高耶は、何に思いを馳せているのか。

あのときも----あのときも----ほんとうは、もう、だめだと何度思ったか……
でも、今こうして、直江はここにいる

「ケーキ、ロウソクに火ぃ点けようぜ」
「はい」
笑顔を絶やさずに直江は頷く。
直江の懐から抜け出した高耶がライターでロウソクに火を灯す。
「Happy Birthday直江」
直江の顔を正面から見詰めながら、高耶もとろけるような笑顔で告げる。
「ありがとうございます……」
言いながら、ロウソクに灯った火を吹き消す。
二人は見つめ合い、幸せそうに微笑む。
「食べる、か?」
「ええ、……きっとあなたが作ったケーキですから世界一甘くておいしいのでしょうね」
直江はお前のセリフの方が世界一甘すぎるセリフだ!と長秀あたりが聞いていたら言いそうなほど甘いセリフを囁く。
「紅茶入れるぞ!」
高耶もそのセリフは甘過ぎだ、と思ったのだろう、ぶっきらぼうに言った。
紅茶はティーパックの紅茶だが、ないよりはマシだと買っていたものだ。
紅茶をいれ、ケーキを皿に取りわける。
「どうだ?」
ケーキを口に運ぶ直江を、高耶が心配そうに見詰める。
「最高においしいです」
「そうか……よかった。実は久しぶりに作るから上手くできるか心配だったんだ」
二人はケーキを一切れ食べ終わると、甘いケーキにお腹がいっぱいになり、二切れ目まで食べきることができなかった。小さなケーキのため、残った量としては半分なのだが、食べきることができない。
「どうしようか?」
困ったように高耶は言う。
「一切れはまた明日にでも俺が食べます。もう一切れ、食べられる良い案があるのですが……」
「なんだ?良い案って」
直江の表情に高耶は少し嫌な予感が漂いながらも、一応訊ねる。
「あなたと一緒に食べてあげる」
テーブルを挟んでいたはずなのに、いつの間にか真横に来ていた直江は、耳朶を甘噛みしながら囁く。
「お……っ前!調子に乗るんじゃねーぞ!!」
高耶は真横の直江を突き飛ばしながら、壁際まで目一杯後退る。
耳に手を当て真っ赤で怒鳴る高耶に迫力なんてありはしない。
高耶も高耶で、先ほどまでの直江との行為の余韻がまだ残っている身体に、直江の美声が響き、身体が火照り出すのがわかる。
たいして広いわけではない部屋だ。高耶はすぐに直江に迫られる。
「あなたも、その気じゃないんですか……?」
「ば……っか、やろ……」
高耶は己自身をジーンズの上からなぞられ、声を上擦らせる。
「ほら……」
やんわりとそこを揉みしだかれ、直江の掌の中に落ちていく----。


----翌朝
「仰木さん!おはようございます」
朝食を食べに食堂に向かう途中で卯太郎に会う。
「ぁ……ああ、おはよう」
「あれ、橘さんは一緒じゃないですき?」
「ぁあ……橘も仕事とがあるからな。今朝早く持ち場に戻った」
今朝早く直江は自室から叩き出していた。
調子に乗りすぎだ、あいつは!
おかげで今朝は腰ががくがくだ。
「二人で徹夜ですか?調子悪そうですけど……」
卯太郎の言葉に含みはないのはわかっているが、動揺を隠せない。
「打ち合わせやらしていたら、夢中になっていてな。結局朝まで起きていたんだ」
適当な嘘で誤魔化す。卯太郎だからこそ騙されてくれる嘘だとはわかっているが……
「卯太郎?」
何か考え込んでいる様子に悟られたのでは?という、心配が頭をもたげる。
「何か甘い匂いがしません?」
不思議そうに卯太郎は高耶に訊ねる。
「そうか?わからないが……」
あのやろう!覚えてろよ!!
あのあと、もう一度シャワーを浴びボディソープとシャンプーで入念に体を洗ったのだが、ケーキの匂いが落ちてくれない。
「そうですき?……」
「楢崎が呼んでるぞ?」
「あっ!?」
卯太郎は首を捻りながら、楢崎の方に駆けていった。
「その様子じゃ、何かあったとき走れませんよ?隊長」
「ひ……兵頭!?」
いつの間にか何もかもわかっています、という表情をした兵頭が真後ろに立っていた。
「いざというとき走れない、じゃ、笑い話にもならないですよ?」
痛烈な皮肉を残して、兵頭も立ち去る。
「な〜お〜え〜」
そこには怒りに震えて立ちつくす高耶の姿があった。


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