「どうしたんだ?直江…」
そろそろ寝ようかと思っていた高耶は、小さな包みを持ってきた直江に不思議そうな顔をする。
「折角ですからあなたの部屋に飾ろうかと思いまして…」
いまだ疑問を浮かべる高耶に包みの中身を取り出してみせる。
「あ……」
そこから出てきたのはクリスマスツリーだった。
異国の地から伝わったといわれる風習、クリスマス。それは初め異国の宗教の神「イエス・キリスト」の誕生を祝うものであったという。それが次第に身近な友や恋人、家族とともに祝うものへと変化して、今では自分の大切な人と過ごす、そんな日になっている。
「クリスマスも忙しいですからね。気分だけでも、と思いまして」
今日は一二月二十三日。クリスマスは明後日となっていた。
「そっか…もうそんな時期か……」
クリスマスだからといって、館の中が特別どう変わるというものでもない。さらに高耶にとっては今まで無縁のものであった。祝いたい相手もいなかったし、祝ってくれる相手もいなかったのだ。けれど今年は……。
「よかったらクリスマスの夜は私と過ごしていただけませんか?」
直江が頼むように言う。
高耶はクリスマスの存在そのものを忘れていたが、思い出したら直江と過ごしたくなる。 直江が他の「大切な人」と過ごすなどと言ったら、それこそ高耶は自分の気が狂うだろうな、と考える。
「夜、空けておけばいいんだな?」
少し遠回しに返事をする。
「ええ…」
それが高耶の照れ隠しだとわかっている直江は優しく微笑む。
初めてのクリスマス。
初めての直江と過ごすクリスマス。
幸せなクリスマス。
「景虎!何か楽しそうなんだけど何かあった?」
晴家が書類を高耶に渡しに来た途端、高耶に尋ねる。
「な…っ何でもない!!」
慌てて否定する高耶の様子に、晴家は微笑みを誘われる。
少し前の景虎では考えられない反応だ。部下には完璧な姿しか見せず、いつも気を張りつめていた。年相応な姿などまず見せてはもらえなかった。それが、景虎の置かれた環境のせいだとわかってはいても晴家にはどうすることも出来なかったことだ。だか、直江と一緒にいるようになって景虎は変わった。初めこそ、険悪な二人に心配もしたが、今は昔からの主従のように過ごしている二人に安堵せずにはいられない。
「ふ〜〜ん」
「何だよっ!」
胡乱げに見つめてくる晴家に高耶は焦る。
「何でもぉ〜」
高耶が目を通した書類に判を押し、晴家に返す。それを受け取っていると、直江が部屋に入ってきた。
「景虎様。片づきましたか?」
「あぁ…」
その一言に、勘の鋭い晴家はピンとくる。
今日はクリスマスの夜。皆が大切な人と過ごす日。
「そっか…そういうことね……んじゃ、私は退散するわ」
ヒラヒラと手を振り早々に部屋を出ていく。
「あ〜あ!私も慎太郎さんのところに行こうかなぁ」
晴家は町医者で恋人の慎太郎に思いを馳せる。
直江と高耶。二人は部屋食事を用意させささやかにこの日を祝う。
「乾杯」
「乾杯」
この日のための特別なお酒。
温かい食事。
願いはちっぽけだけど、大切なこと。
これからもこの人が幸せでありますように――
これからもこいつが幸せでありますように――
この幸せが永遠でありますように―――
+終わり+
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