朔の里
一月。直江は高耶に人らしい行動を覚えさせようと躍起になった。
都では実家に寝泊まりすることになる。そこで、今と同様の生活を望むべくもない。家族も居るし、女房達も大勢居る。人の口に戸は立てられない。どこかから必ず高耶のことは外に漏れる。取り繕えるだけのものは躾ておかなければ、高耶自身に危険が及ぶ。
「ほら! しゃんとして下さい」
狩衣さえも厭がった高耶に、直江は仕方なく水干を着せた。水干姿の者を一緒の輿に乗せるのは問題が無きにしもあらずだが、「お気に入り」といえば鄙者よと直江が笑われるだけで、裸よりは不審がられない。今まで辛うじて小袖を纏っていた高耶に取っては、水干姿でさえも嫌なものなのだろう。先程から、ぐずつき直江の手を煩わせていた。
「この格好が嫌でしたら、屋敷で留守居をしてもらうことになりますよ?」
その言葉に、一応は大人しくなるが、まだ不満を浮かべている。
「この格好で立って歩いて、少しの間大人しく座っていてくれれば、あとは好きにして構いませんから、ね?」
「……わかった」
直江のその言葉に、渋々高耶は頷く。
そうやって直江がなだめすかして高耶が人らしく見えるようになるころ、奥村が用意した迎えがやって来た。
良き日を選び都へ向かう。直江一人であれば、大仰な準備は不用であったが、高耶も一緒だったため、輿を用意しての都行きとなり、時間もその分かかかる。道中高耶とともに輿に乗り、寝所では直江自ら結界を張り、周囲に人を寄せ付けずに眠る。それをおよそ三十繰り返した頃、ようやく都の入り口、羅城門が見えてきた。直江はそれに安堵の息を吐きつつ気を引き締める。四神に護られた都との境目。その結界を無事に通り抜けることが第一関門だ。
ここへ辿り着くまでに、直江は輿に呪をかけ、細心の注意でもって結界を張っていた。輿の中から、自分以外の気配がしないように。それが、至上命題。
四神は外部からの侵入に敏感で、僅かでも、高耶の気配が漏れれば、その勘気に触れるだろう。それだけ高耶の気配は異質だった。
輿が大門を潜る瞬間、直江の緊張はピークに達していた。
――……。
たった、数秒。けれど、直江にとっては永遠にも等しい時間だった。
直江は、何事もなく朱雀大路の賑わいを聞き、安堵の溜息を吐く。都を護る四神も、中に蔓延る魑魅魍魎には寛容だ。彼らは、あくまでも外的からの侵入のみに目を光らせている。あとは、このまま三条辺りにある実家に辿り着けば一安心といったところだ。
直江は焦る気持ちを押し込め、輿が実家に着くのをじっと待った。
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