朔の里
ようやく辿り着いた実家では、兄二人の熱烈な歓迎を受けた。まず、直江が輿から降り周囲を見回そうとした瞬間、屋敷からドタドタとした音が聞こえ、懐かしい顔が現れた。「元気だったか?」
二人の兄とは、都を離れて以来の対面だった。十年近く会っていない。ただでさえ年の離れた兄は、年を重ね相応の落ち着きを身に付けていた。そこに、年月の経過を感じつつ、兄に挨拶をする。
「ただ今戻りました」
「ああ」
三人で思わず話し込んでしまうと、輿の中から直江を呼ぶ声が聞こえた。
「あ…あ――すみません」
直江は、一瞬でも高耶のことを忘れていたことにばつが悪く苦笑しながら、高耶に腕を伸ばす。
直江に抱き上げられ、輿から降りた高耶は、知らぬ人間に警戒し直江の背後に隠れる。
「直江?」
その様子に、不信に思った二人の兄は直江に声をかける。
「すみません。今向こうで面倒を見ている高耶です」
ほら、と直江が高耶の背中を押すと、高耶は直江の影からおずおずと顔を出す。
「は……はじめまして。高耶です」
その様子に、歳の離れた兄たちは、微笑ましさを感じたようだ。笑顔で応えてくれた。
「屋敷の中に案内していただけませんか?」
さすがにいつまでも庭先にいるのも、と思った直江が二人の兄に声をかける。
言われて気がついたのか、二人は罰の悪い顔をして、直江と高耶を案内する。
「部屋は母上がそのままにしている。高耶君の部屋は言われたとおり、お前の隣に用意している」
その言葉に直江は礼を述べる。客人の部屋を家の者の隣に整えることは、本来ない。それでは高耶が寂しがるから、と無理を言って整えてもらったものだから、直江も強く出られない。
「母上もお前の帰りを待ちくたびれてる。すぐに顔を見せてやれ」
頷き、高耶とともに屋敷に向かう。
「ご無沙汰しておりました。母上」
「本当にご無沙汰ですよ、義明さん」
御簾越しに妙齢の女性の声が聞こえてくる。それが、元気そうで直江は安堵を覚える。
「母上は元気そうで何よりです」
コロコロと笑う声が、聞こえてくる。
「そちらは?」
そして、直江が連れている高耶に視線を移す。
「現在私の屋敷で面倒を見ているもので、高耶と申します。今回屋敷を暫く離れるため、一緒に連れて参りました」
「そう、可愛らしい方ね」
その言葉に、直江は一瞬動きを止める。しかし、瞬時に平静を保ち、母に告げる。
「高耶は何分雛で生まれ育ちまして、都の礼儀には疎いのですが、暫く私も留守がちにします。その間、面倒を見ていただいてもよろしいでしょうか」
「構いませんよ。高耶さん――と呼んでいいかしら? 初めての都で勝手が違うかもしれませんが、我が家と思って寛いで下さいね」
「ありがとうございます」
初々しい高耶を母も気に入ったようだ。母が目を掛けてくれるのならば、留守にしても安心だと直江は安堵する。
「直江。高耶さんも道中疲れているのではなくて? ゆっくりさせてあげなさい」
「お気遣いありがとうございます。お言葉に甘えて、今日は部屋でゆっくりさせていただきます」
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