朔の里
 二人そろって退室し、ようやっと直江の部屋に腰を落ち着ける。
「高耶さん。暫く私は留守にします。この部屋の中では自由に過ごしていただいて構いません。女房も古くからの信頼できる者です。ただし屋敷内は自由に動き回って結構ですが、気を抜かず振る舞いに気をつけてください」
 直江の真剣な瞳に高耶神妙に頷く。
「今日は私も屋敷で過ごします。二人でゆっくりしましょうか」
 直江のその言葉に気を抜いたのか、高耶が擦り寄って抱きついてくる。邪魔そうにしている衣を脱がせてやり、高耶を抱きしめる。
「――直江様」
 衣一枚の高耶を抱きしめていると、直江も世話になった古くからの女房が顔を出した。「あらあら……不調法でしたわね。またあとで参りますので、呼んでくださいませ」
 そそと去っていく女房を追いかけることもできずに、直江はつい見送ってしまった。
 我関せずで懐く高耶に苦笑しつつ、諦めのため息を吐く。突き放せなくなっている時点で、直江の負けでしかない。
「明日の朝早くから暫く出かけてきます。家の者のことをよく聞いて、待っていていただけますか」
「待ってる」
 ギュッと抱きついてくる高耶の艶やかな髪の感触を確かめつつ、話し掛ける。
「時間ができたら、合間にも屋敷に戻ってきます。だから、ちゃんとお出迎えしてくださいね」
「うん。出迎える」
「絶対ですよ」
「絶対だ」


 高耶を屋敷に置いてきて七日が経っていた。心配になりつつも、奥村が持ち込んだ相談は思った以上に厄介な問題で、高耶に会うことができないでいた。
 けれども、引き受けた以上は必ず依頼を果たすことが第一である。難航していた原因究明も糸口が見つかり、そろそろ詰めの段階だ。一気に片を付け、高耶のもとへ戻ろうと決めていた。

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