紫紺の夜明け
平穏
「やはりどうしても財政が嵩んでいるな……」
財務を担当する家臣からの報告に、高耶は溜息を吐く。
「ここのところ出費が重なりましたからね」
直江も高耶とともに溜息を吐く。
自分の死を予見していたらしい謙信は、そのためにそれなりの用意はしていたが、謙信の妻だった二人の女性の生活する館の建設は、上杉の財政を圧迫していた。
「だが、用水路の建設だけは外せない。――仕方ない、東館の修復は先延ばしだ」
高耶の言葉に直江が間髪入れずに進言する。
「古くからの者が納得しないのでは?」
「どうしても必要な場合は西館を使えばいいだろ?」
東館は嫡子の住まう場所だった。今、領主の高耶は本館に住んでいる。一七歳という年齢の高耶には、妻も、ましてや子もいない。使う者のいない場所のために割けるだけの財源は、今の上杉にはなかった。
「ジジイどもの説得は直江に任せた」
悪戯っ子のように、椅子に座った高耶は正面斜め左に立った直江を見上げる。
「仕方ありませんね」
直江も上杉の状況を解っているため、強く言うことはできずに苦笑する。
正直、領主に子のいない状況は好ましいことではない。頭の固い連中は、生殖能力があるのであれば、すぐにでも子を作るのは領主の義務だと主張している。そこに、高耶や相手になるであろう女性の意志など介在しない。
そんな周囲に直江も反発を覚えている。高耶は人形ではない。周囲の思い通りに動かすことは将来的に不幸しか呼ばないだろうに、頭の古い連中はそれが解らないらしい。
国などはそれが誰であろうと優秀な者が治めれば、領民は幸せなのだ。
高耶と直江の思いは同じだった。
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