紫紺の夜明け
序章

 人類の文明が成熟し、荒廃を迎えた世界。かつて日本と呼ばれた国は、数人の力ある者が治める乱世を迎えていた。
 その中の一つ。越後の国では上杉謙信という力ある領主を頂き、安定した状態を保っていた。しかし、その謙信が急逝し領内は乱れた。その結末は、兄弟の片方の死という悲しいものだった。
 殺された者、生き残った者。どちらがより幸せだったのかは、きっと生き残った者が死ぬ瞬間までわからないだろう。

 跡目争いに勝利した景虎は、乱れていた領内を治めることに苦心し、謙信亡き後その意志を継いだ善政で、徐々にその評価を高めていた。
 けれど、領内の争いでその国力は最盛期にはいまだ劣り、周辺国の侵略に怯えなければならない状態だった。そのため、景虎は謙信の時代に同盟を結んでいた北条との同盟を再び結ぼうとしていた。
 北条は景虎の母の出身でもあり、景虎は伯父の氏康を尊敬していた。海千山千の領主達の中でも、食わせものであったが偉大な人物であることに間違いない。家督は息子の氏政が継いでいるとはいえ、いまだ氏康の影響力は計り知れない。油断できないもう一つの隣国、武田の治める甲斐の国に隙を突かれないためには、同様の大国北条の治める相模の国の力は有効であった。
 しかし、それも景虎にとっては一時的な措置である。景虎は氏康のことは尊敬している反面、従兄の氏政とは仲が悪かった。
 最盛期の国力まで高め、大国相模の国や甲斐の国と独力で渡り合えるようになることが、景虎にとっての当面の目標である。

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