☆CAKE☆
「仰木さん!!」
自室の前に着いたところで、卯太郎に呼び止められた。
「どうした?」
ケーキを卯太郎から隠しながら振り返る。
「これ!!頼まれた資料です!」
廊下を走ってきたのか、息を切らせながら、分厚いファイルを差し出した。
「ありがとう」
微笑をこぼしながら礼を言う。
「走らなくてもよかったんだぞ?」
慌てて駆けてきた卯太郎にからかうように言う。
「仰木さん探してもみつからんですき……そこを歩いていたら後ろ姿が見えたので慌ててしまいました」
照れ笑いする卯太郎は弟のようでかわいい。
高耶が時々調理場にいることは、現在ほとんどの隊士が知らない事実だ。調理班のメンバーは堅く秘密にしているし(調理班では他の隊士にばれないよう箝口令がしかれている)、そのことを知っている高耶の周囲の極極少数(2、3人程だ)の人間はわざわざそのことを吹聴してまわる人間ではない。そのため、卯太郎は高耶が調理場に時々顔を出しているなど全く知らない。
「ありがとう。助かった」
「そんな!!」
高耶の言葉に卯太郎は恐縮する。
卯太郎にとって崇拝さえしている高耶の役に立てることは、誇らしいことである。まして今では平隊士にとって直接話せる機会など本来滅多にない高耶だ。こうして時々用事を頼まれることは卯太郎にとって嬉しいことでしかない。
「ついでに、もう一つ頼まれてくれないか?」
「??構いませんよ?」
今度は何だろうと、素直に表情に出ている。
「橘に今夜俺の部屋に来るように連絡してくれないか?」
「いいですけど……??……」
直接呼び出せばよいのに……と思っていることが手に取るようにわかる。しかし、今夜自分の部屋に直接呼ぶのは、なぜか悔しい。で、頼まれたら断らないだろう卯太郎に頼む。
ズルイ……な。
逃げを打つ自分に自嘲する。
「悪いが頼むぞ」
「ハイ!今夜仰木さんの部屋にですね」
「じゃ」
卯太郎に背を向け部屋に入る。
ドサッ
部屋に入り畳の上に座り込む。
「ふぅ」
息を吐き、スポンジケーキのケースを傍らに置く。くつろぎながらなんとなしに卯太郎が持ってきたファイルを開く。
パラパラとめくりながら見るともなしにみていると、だんだん資料に意識が集中してくる。そうこうしているうちに、気付くと日が暮れだしていた。
「もうこんな時間か……う…んっ」
立ち上がり、こわばった体を伸ばす。
「っと」
ケーキの入ったケースを持ち上げ廊下に出る。
まだ夕食の時間には少しはやい。おかげで、そこまで多くの隊士に見とがめられることなく、調理場に向かえる。
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