朔の里
初めて肌を合わせた夜以降、夜毎直江と高耶は睦み合っていた。直江は、久しぶりに高耶と交わることで忘れ去っていたはずの欲への乾きを思い出し、まるで砂漠の旅人が水を欲しがるかのごとく高耶を求め、高耶は、初めて知った快感に溺れ、直江に与えられる快感を貪欲に貪っていた。寝ることを忘れ夜通し行われるそれに、高耶からは雄を誘う香りが匂い立ち、固く閉じていた窄まりは雄を誘うようにしっとりと綻びだす。それが、更に直江を煽り、高耶の体はますます淫らに開花していく。
そんな怠惰な毎日を過ごしていた二人だったが、そうやって屋敷に籠もっているだけでは生きていけない。屋敷の雑事は式がやっていたが、食料、取り分け高耶の主食たる肉だけは、直江がどうにかするしかない。仕方なく直江は、疲れて寝ている高耶を置いて狩りの支度をする。そうしてよく寝ている高耶を起こさぬよう、物音さえもさせずに直江は屋敷を後にした。
けれど、残してきた高耶が気になって仕方なかった直江は、一匹の猪を捕まえると足早に屋敷を目指していた。小柄な猪だったが、高耶一人の食料ならば、これで幾日も凌げる筈だった。乾燥させておけば保存も効く。半日ほど屋敷を空けていた直江が、急ぎ屋敷の門前へ歩を進めていると、屋敷の前に人影が見え、思わず足を止めていた。
「誰だ?」
不審を滲ませた直江の声に、顔を上げた人物は、直江にとって懐かしい顔だった。
「奥村……?」
「お久しぶりです」
奥村は直江の乳兄弟で、兄と年が離れていたこともあり、本当の兄弟同然に育った仲だった。直江が実家を離れて以来会っていなかったが、いきなり尋ねてくるとは……と、多少いぶかる。
わざわざ都からやって来た奥村を門前で追い払うことも出来ず、かといって屋敷内にいるであろう高耶を思い、直江は逡巡する。
しばらく悩み心を決めると、奥村に話しかける。
「悪いが少しここで待っていてくれないか?」
「かしこまりました」
奥村を門前に残し、直江は門を潜る。
そうして、敷地内に入った途端抱きついて来た高耶を咄嗟に抱きしめる。
「おっと――どうしました?」
直江の首にギュッと抱きついたまま、顔も上げない高耶に直江は不審を抱く。
「いない――」
「?」
高耶の言葉に、直江は訝る。
「起きたら、直江――いない」
その言葉で、直江は理解する。目が覚めたときに直江が居なかったことで高耶は不安になったのだろう。そんな様子を可愛く思いながら、獲物を肩から降ろし、高耶を抱き上げる。
「すみません。よく眠ってらしたし、すぐに戻ってくるつもりだったので。高耶さんのご飯を狩りに行っていたんですよ」
なだめる直江の首筋に更に縋り付き、終いには直江の体に脚も絡めてくる。そんな高耶の様子に、高耶を抱き上げ歩き出す。
気に入りの日が当たり風の吹き抜ける特等席に高耶を運び、そっと降ろす。けれどいまだに離されない高耶の腕に、ポンポンと背を叩き落ち着かせるよう頭を撫でる。
「申し訳ないのですが、客が来ているんです。ちょっと、話をしてきますのでここで待っていてくれませんか?」
その言葉に、高耶は一瞬腕に力を込めた後、頷き直江から離れる。直江はそれに物足りなさを覚えつ、直江の視界の端で高耶が敷いた衣の上に寝転がるのを収めつつ、屋敷の門へ引き返した。
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