朔の里
 直江と別れて既に六日目の夜も更けようかという頃。今までずっとそばにいた直江がおらずに、寂しくて寂しくて溜まらなくなった高耶は、眠れぬ夜を過ごし、御帳台から抜け出していた。外はもうじき満月。暗闇を月の明かりが照らしており、夜目の利く高耶には何不自由ない明るさだった。庭を屋敷の者に見つからぬように歩いていた高耶は、どうやら北の方の対の屋に迷い込んでしまっていたようだった。
 そして、漏れ聞こえた「直江」という言葉に引き寄せられ、フラフラと近寄ってしまっていた。
「直江様も早く北の方様をお迎えになって落ち着かれたらよろしいのに」
「……あら。そんな日も近そうですわよ?」
 耳の良い高耶はその言葉を拾ってしまい、走り去っていた。だから、その後に続く言葉は聞こえていなかった。
「だって………」




 高耶は自分が聞いた話を、拙い言葉で事細かに告げる。
「それで私が結婚すると?」
 頷く高耶に直江は図らずも溜息を吐いてしまう。
 その溜息の音に、過剰に反応する高耶に、直江は苦笑を禁じ得ない。
「屋敷のものが何を思ってそう言ったかは私には解りません。けれど、私は世俗を離れた身。結婚など考えたこともありません」
「……」
 尚も信じられないと顔に書いてある高耶に、直江は続ける。
「それに、私は都に戻るつもりは一切ありません。貴族の姫君がこんな鄙に住む私と結婚してくれなどしませんよ」
「……」
「こんなに私に馴染んでいる高耶さんを手放すほど、私も聖人君主ではありませんしね」
 そう言った途端、直江はいきなり高耶を抱きしめ、そのよく引き締まった尻を撫で上げる。
「……ッ!」
 その行動に驚いたのは高耶だ。飛び跳ね身を捩ろうとしたのだが、しっかりと抱き込まれては後の祭り。逃れることは叶わなかった。
 無理矢理高耶を抱き上げた直江は、高耶と過ごし慣れた対の屋へ、強引にその体を運ぶ。そうして、いつの間にか整えられている御帳台に、その体をそっと横たえた。
「私が居ない間、どうしてたんです? 独りで慰めてた?」
 高耶の脚を強引に割り開き、耳元で囁いてやる。
 それだけで、快感に慣れた高耶の体は溶けていく。
 夜毎直江と睦み合っていた高耶の体は、数日の直江の不在に既に悲鳴を上げていた。少しの刺激にも敏感に反応する。
「私が居ない間、どうしてたんです? 独りで慰めてた?」
 高耶の脚を強引に割り開き、耳元で囁いてやる。
 それだけで、快感に慣れた高耶の体は溶けていく。
 夜毎直江と睦み合っていた高耶の体は、数日の直江の不在に既に悲鳴を上げていた。少しの刺激にも敏感に反応する。
「私がどこぞの姫君のもとへ通っていたですって? そんなこと、本当に思っていたのですか? あなたのもとへ少しでも早く帰ろうと、寝る間を惜しんで働いていた私が?」
 高耶は直江の言葉の端々に滲み出す怒りに触れ、快感で流される体とは逆に、心を戦かせる。
「……そうですか」
 直江も高耶が自分の怒気に怖がっているのが解っていても、言葉を止められないでいた。その程度には、怒っていたのだ。疲れて急いで高耶のもとへ戻ってみれば、屋敷に居ない。そして、あれほど諫めていたにもかかわらず、一人で都を出歩いて、その身を危険にさらしている。高耶を屋敷の前で捕まえるまで、直江は生きた心地がしなかった。もし、万一捕らえられたら? 相手が悪ければ、直江も高耶を取り戻せなかったかも知れない。
 解っていない高耶に苛立ちが募る。
「私と居るのが嫌なら、好きなところに行ってしまいなさい。この体を使えば、権力者の懐に潜り込むことも容易いでしょう」
 直江の突き放す言葉に、高耶は目の前が真っ暗になる。
「やぁ――……!」
 離れていく直江に思わず声が出ていた。
 それを無視して立ち上がりかけた直江に、必死にしがみつく。ここで手を離したら、直江を失ってしまう。それを理解した高耶は、二度と離すものかと腕に力を込める。
「いたい! なおえといっしょがいいッ」
 高耶の必死な様子に、直江は体の力を抜く。直江にしても本気で高耶を手放す気はない。ただ、考え無しな高耶の行動に苛立っていただけだった。
「私は言いましたよね? 都の中は危険だから、決して屋敷から出てはいけないと。どんな理由であれ、約束を守らなかったのは高耶さんですよ? それなのに、何もせず許して貰おうなんて、虫がよすぎると思いませんか?」
 高耶は直江にしがみついたまま、その言葉の意味を理解しようと直江の目を見詰める。
「私と一緒に居たいなら、……相応の謝罪はしていただかなくては――ね」
 直江は高耶の唇を、指でなぞり薄く開かせる。
「出来ますよね?」

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