Backgroun by cool moon

「ふぅぅ〜」
 高耶が湯船に浸かると、親父のように大きな溜息を吐いた様子に直江は笑う。
「年寄りみたいですよ?」
「いいだろっ!気持ちよいんだから」
 風呂は広く十人入っても余裕だろう広さであった。
 その中で高耶はピッタリと直江の側に寄り添っていた。さり気なく直江が高耶から肌を離そうとしても、高耶はすぐに直江に引っ付いてくる。不安を引きずっているのが痛いほどわかってしまう。
「高耶さん」
 直江は高耶の耳元で言う。
「え?」
 いきなり耳元で囁かれた高耶は驚きに目を見張る。
「少し離れていただけますか?」
「…っ」
 直江の言葉に傷ついた表情をする高耶に直江は慌てて言う。
「その…俺を煽らないでください」
「あっ…ご…ごめん!!」
 直江の言葉に高耶は急激に直江の肌の感触を自覚し、慌てて距離を取る。
 しかし、多少距離を置いたくらいでは直江にとってはどうしようもなかった。なにせ、高耶は湯の温かさで上気した肌をさらに真っ赤に染め、髪は湯で滴り目は潤んでいるのだ。その状態の高耶を見て直江が平静でいられるはずがない。
「すみません」
 一応一言謝り直江は高耶をあっという間に抱きすくめる。
「え…」
 高耶が状況を把握する前に、直江の唇で高耶の口は塞がれていた。
 高耶は直江の膝の上に抱きかかえられその口腔を思う様貪られる。それと同時に直江のものが尻に触れ、高耶は半分パニックを起こしていた。直江のものは既に立派に勃起しており、高耶のものも直江の巧みな舌技で、半ば起ち上がっていた。直江は高耶をキスから解放すると、そのお互いのものを一緒に掴み擦りあげる。
「……?っ…なに…?」
 初めての行為に高耶は直江の為すがままである。
「ふぅう…ん!」
 快感に流され、思わず声が挙がる。それを聞いた直江はさらに手の動きを激しくする。
「んんん…っ」
 高耶は眉を絞り、射精をこらえている。その表情に直江もまた煽られる。
「出してしまいなさい」
「ああ…あぁぁああ――!!」
 掠れた直江の情事の声に、高耶は我慢することができず、湯船の中放っていた。そのあまりによい表情に直江も思わず達ってしまう。
 ドサッと高耶は直江の肩に崩れ落ちる。どうやら上せてしまったようだった。
 直江もこれ以上高耶と一緒に風呂に入っていると、自分も上せそうだったため、クッテリしている高耶を抱えて風呂から上がる。
 ザバッと水しぶきを上げて脱衣所に戻った直江は、高耶の体を丁寧に拭いてやり服を着せ、自分も手早く体を拭くと、置いてあった服に袖を通す。それは高耶と揃いの羽織で、越後では一般的な寝姿であった。


「あら…」
 グッタリとしている高耶を抱えて部屋に戻ろうとした直江は、途中葛西の婦人に廊下で会ってしまった。
「どうも上せてしまったようで…」
 シレっと言う直江に婦人はあらあら、大変、と早く部屋へ運んでやるように促す。直江はあとで冷たい水でも持ってきてくれませんか、と頼み高耶を部屋に運ぶ。


 ベットへ降ろされた拍子に目を開けた高耶は、しかし直江を視界の中に認めるとあっという間に赤面してしまう。
「あ…なおえ?」
「上せてしまったようですね」
 苦笑を零しながら言う直江に、高耶はシーツで顔を隠しながら睨む。
「お……っお前っ…」
 高耶は言葉が出てこず、金魚みたいに口をパクパクする。
「謝りませんよ、俺は。俺の気持ちはあなたも知っているはずです。なのに煽るあなたが悪い」
 直江は真摯な瞳で高耶に訴える。
「………」
 高耶も赤面しながら黙り込む。直江の言っていることは高耶にも解る。しかし、頭で理解しても心が理解するとは限らない。
 コンコンコン…
 静寂の中、ドアを叩く音が聞こえてくる。
「はい」
 直江は先ほどまで浮かべていた感情を笑顔の下に隠し、ドアを開ける。
「お水と食事を持ってきたのだけど…」
「あぁ…ありがとうございます。食事も温かいうちにいただきますね」
 あたりは柔らかい、しかし踏み込むのを許さない声音で直江は優しい婦人に告げる。
「食器は明日の朝持ってきてくれればいいから。ゆっくり休んで下さいね」
 屋敷の住人として様々な人物と接してきた婦人は、直江の心情を敏感に察してこれ以上踏み込まないことを言外に直江に告げる。
「ありがとうございます」
 直江は笑顔で婦人を見送る。
 そして、高耶を振り返り打って変わった表情を見せる。
「水を持ってきてもらいました。よかったらどうぞ」
 いまだにシーツの中に隠れている高耶の目の前に、水を注いだグラスをかざす。すると、高耶はシーツの中から手を伸ばしグラスを奪うように受け取り、急いで起きあがり直江背を向ける。さすがにその様子には直江も苦笑するしかない。
 背中越しにもその耳を赤く染めている様子から、赤面している高耶がわかる。
 その表情に浮かぶのが嫌悪でないことに直江は救われていた。高耶から感じる感情は戸惑いだ。その反応に今後の展開も直江にとって期待できる。
「食事も持ってきていただきました。よかったら一緒に食べましょう?」
 高耶は一人きりの食事を殊の外嫌う。一度なぜと尋ねたら、以前は一人で食事をすることが多かったが、その食事は味気なさ過ぎた、と言っていた。一人で食べるくらいなら、食事をしない方がよいとまで言う高耶に、直江は毎回食事だけは可能な限り同席することにした。
 ね?と尋ねる直江の声に、高耶の腹の虫が鳴る。温かい食事の匂いに触発されたのか、胃が活動しているようだ。
 手際よくテーブルにセッティングしていく直江に、高耶は渋々グラスを片手にベットを降りる。
 いまだ頬を赤く染め、憮然としている高耶に直江は苦笑を禁じ得ない。
「ほら、冷めてしまいますよ」
 直江の促しに椅子に座り、高耶はいただきます、と言うと料理に手を付け始める。

*  *  *

「よく眠れましたか?」
 朝早く起き出した直江と高耶を葛西の婦人は笑顔でむかえる。
「ええ」
 高耶も直江も温泉に浸かったのが効いたのか、疲れがそうさせたのか、ぐっすり眠っていた。
「おはようございます」
 既に葛西も起きているようで、食事の席に着いていた。
「おはよう」
 葛西は高耶が現在の領主であることを知っても、昔のように変わらず高耶に接してくれる。その葛西の態度に高耶は救われていた。
「すぐに発つのかね?」
「はい。できるだけ早く帰らないと仕事も溜まっていますし…」
 山積みであろう自分の執務机を想像して高耶は苦笑を漏らす。
「そうか…今度は時間のあるときにゆっくり遊びにおいで」
「葛西先生も、是非遊びにいらして下さい」
 葛西の申し出に高耶も微笑む。
「長秀も今は城下にいますから」
「帰ってきているのかい?」
 葛西はどこかに放浪に出ていまだ行方しれずだと聞いていたもう一人の教え子の消息を、喜びと共に聞く。
 高耶は懐かしい人と語らいながら食事を食べ、そうして、来たときと同じ馬で直江と一緒に屋敷をあとにしていた。


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