「ど〜も北条の動きがおかしいらしいぞ。街中にも北条の手の者らしき人間がうろうろしているという情報が入ってきているしな」
「そうか…その件は景虎様が戻ってきたらまた話してくれないか……私の一存では何とも言えないからな」
「あぁ…」
「長秀お前、景勝様の死について何を知ってる?」
ずっと知りたかったことへの糸口がやっとみえた直江は、ここぞとばかりに単刀直入に尋ねる。
「オレが知っている情報っていってもたいしたことないぜ?」
長秀も端からこの件について話すつもりできていたので、もったいぶることなく話し始める。
「景勝の死は謙信公が関わっているらしい」
「え…?」
「謙信の命で、景虎が景勝を殺した」
「謙信公の命で景虎様が…?」
あまりな内容に直江は呆然と聞いた内容を繰り返す。
「まさか!?」
「信じないならそれでもいい」
鼻で笑おうとする直江に長秀は間髪入れず言う。
「偽の情報を掴まされたんじゃないのか」
信じられず先ほどの長秀の言を否定しようとするが、いつかの景虎の寝言が浮かんでくる。
「…う…、なぜ……か?父…上…」
「景…勝ぅ」
景勝の名を呼びうなされていた景虎。
父謙信に対する疑問。
確率は万に一つ。だが、頭からその推測が離れない。
「何か思い当たることがあるのか?」
長秀の声で現実に戻される。
「いや。特にない」
その返事とは裏腹に、何かの考えに捕まっているのは明白。千秋は何か思い当たる節があるのだろう、と予想する。
「話によれば、謙信は自分の死を予測していたらしい。誰もが突然の死だと思っていたあの死をな。それで、死の間際に謙信が信頼していた八海に命じて、もし自分が死んだら景勝は殺すよう言っていたんだと」
「なぜ……」
呆然とたたずむ直江に千秋は更に言う。
「これはオレの見解も含んでいるが、あのときの状況じゃ景勝、景虎両方がいた場合この領地ないが乱れるおそれがあった。だから国主としての選択が景勝の死、だったんじゃないのか?」
言い終わると、未だ呆然とたたずむ直江をよそに、千秋は煙草を燻らせる。
それから、1分か20分か時間の感覚がなくなるような空間の中、感覚としては長い時間を二人は過ごし、ようやく直江が口を開く。
「その話では、景勝様の死は謙信公と八海の仕業で景虎様は関わっていないんだな?」
「さぁ?」
千秋の返事に直江は眉をしかめる。
「千秋!!」
「あいつは抜け目ない奴だからな。知っていて黙認していたのかも知れないし、知らなかったのかも知れない。もしかして、直接関わっているかもな。オレもそこまでの情報は持ってない」
「そう…か」
二人の間の会話が途切れる。
直江は自身の執務机の椅子にドサッと腰を下ろすと、机から煙草を取り出し煙草をふかしながら漠然と色々なことを考える。
景虎の言動…何か気になることはなかったか…
どれくらいそうしていたのか。気付いたら館が寝静まる時間になっていた。
「直江ー!!」
そこに、挨拶もなしに部屋に飛び込んでくる人物がいた。
「晴…家?」
直江と千秋二人は驚いてその侵入者をみる。それは、景虎の身の回りの世話をしている晴家だった。
「景虎知らない!?」
入って来るなり必死の形相で直江に詰め寄る。
「え…どうしたんだ?」
直江の様子に苛立ったように晴家はますます詰め寄る。
「いないのよ!!お母様のところに行かれたあと、戻ってこないのよ!!」
「な…に!?」
千秋も椅子から立ち上がる。
「どういうことだ!?」
千秋の叫び声にやっと晴家は千秋のことを認識する。
「あんた…」
みるみる晴家の形相が変わる。
怒りの表情で今度は千秋に詰め寄る。
「何か知っているんじゃないの!?ってか、あんたが犯人じゃ!?」
「そんなわけあるか!!」
千秋は叫び、少し冷静な声で続ける。
「母親との会食からは戻ってきたのか?景虎は」
「いいえ、なかなか戻ってこないからお母様の方に問い合わせたのよ。そしたら、『もうだいぶ前に戻りました』って言われて」
「嘘…だな……」
千秋は呟きながら直江の方を見る。
直江も千秋をみて言う。
「ああ。十中八句犯人は北条」
こんなに早く動くとは、とうかつな己を直江は責めながら頭の中で今後の対策を練る。
「そんな…どうすれば……」
晴家は景虎の行方不明が母親の仕業ときき信じられない思いで呆然としていた。
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