Backgroun by cool moon

 千秋は突然の揺れと、爆発音に驚き叫んでいた。一緒にいた晴家や直江も何が起きたのか解らず、動揺を隠せない。
「な…直江様!!」
 警備の兵士が慌ててやってくる。
「どうした!?何があった!??」
 鋭い視線で問いただす直江に、兵士はパニックを起こしながらも報告をする。
「景虎様の母君様の棟が…っ!!爆発しています!!!」
「何!?」
 直江、千秋、綾子の三人は皆いちように驚きの声を上げる。
「何が起こったんだ!?爆破か?」
「そこまでは…っしかし、現在棟は炎上して……中にいた人物の生存は絶望的ではないかと…」
「そんなっ……」
 綾子は悲鳴を上げ、直江は爆発の起こった場所に走り出していた。


「こ……っこれは!?」
 建物の残骸の前に立ち、直江は呆然と突っ立っていた。
「オイっ!!直江!!!」
 あまりの直江のダッシュに付いていけなかった千秋がようやく追いついてきて、呆然と佇む直江に声を掛けた。
 その声にハッと正気に戻った直江は辺りに視線を走らせる。
 ガラガラ……と不自然に瓦礫が崩れていくのが目に入る。そちらに視線を走らせると、小太郎が起ち上がっているのが見えた。直江は小太郎のいる場所まで走り寄る。途中瓦礫の山を乗り越え、必死に走る。
「小太郎!!」
 直江は小太郎に掴みかかる。
「高耶さんは!?」
 直江の様子に小太郎は冷静に答える。
「無事だろう…」
 周囲を見回し、何かを探しているようだ。小太郎は何かを見付けたかのような反応をし、歩き出す。
「おいっ!!小太郎!」
 直江は小太郎の後を追う。
 そうすると、爆心地の近くなのか全てが吹き飛ばされた跡のような場所にでた。
 小太郎はさらに歩いていく。直江がその先に視線を走らせた瞬間。
「高耶さん――」
 視線の先、そこには高耶が無傷で佇んでいた。それだけならまだしも、重力を無視して瓦礫の一部が浮いている。その様子に直江は愕然とする。
 小太郎は直江を後目に高耶に近づいていく。
「景虎様」
 ある一定の距離を高耶と保ちながらも、小太郎は高耶に声を掛ける。
「景虎様」
 もう一度小太郎が呼ぶ。そうすると、焦点の合っていなかった高耶の視線が小太郎に向けられる。
「小太郎?」
「そうです。どうやら遠山殿は爆発に巻き込まれてお亡くなりになったようですね」
「とおやま?……遠山……っ」
 高耶の周りに気流が巻き起こる。
「遠山様はお亡くなりになりました」
 強い口調で小太郎が言う。
「あなたを害する者はいなくなりました」
「いない?」
「そうです」
「……小太郎」
 ようやく高耶が正気に戻る。
「これは……」
 辺りの惨状に視線を走らせ呆然としている高耶に小太郎は事実を淡淡と告げる。
「”力”が暴走してしまったようですね。しかたのないことです」
 しかし、高耶には小太郎のその言葉は耳には届いていなかった。ふと視線の先に見知った人物の影が目に止まる。
「なおえ……」
 高耶の顔から血の気が引く。
 見られた!見られた!知られた!
 言葉が頭を埋め尽くす。
 直江に知られた!!
「高耶…さん……」
 直江の呟きに、高耶は過剰に反応する。
 一歩高耶に直江が近づくと、高耶は恐怖に瞳を見開き、一歩後退る。
「や……っ…くる……な」
 二歩三歩と後ずさり、直江に背を向け走り出す。
「高耶さんっ!!」
 直江は反射的に高耶を追う。一心不乱に走る高耶の脚は早い。直江も追いつけない。見失わないよう追いかけるので精一杯だ。
「待って!!……待ちなさいっ!!」
 直江は叫ぶが、高耶は振り返りもせず真っ直ぐに走る。しかし、突然高耶の脚が止まる。
 その先は崖であった。深い谷底に広がる崖。
「あ……」
 高耶は愕然とする。直江から逃げることだけを考え、先に何があるのかすら考えず闇雲に走った自分を後悔する。
 しかし、崖の先は深い谷。これ以上逃げることは不可能だ。いくら高耶でも、この谷を飛び込んだら助からない。
 助からない…?
 それもいいかも知れない……
 高耶は思う。
 そこに飛び込んで、この一生を終わらせてもいいのでは?母からは愛されず、皆から傀儡のように扱われる自分。ただ一人、自分を愛してくれた父(ひと)は亡くなり、大切な親友の死を招いた。自分には生きる資格など本当はないのではないのか?直江の大切だった景勝を死に追いやったのは自分。どうせ直江も真実を知ればオレに憎しみしか、憎しみの瞳しか向けてくれなくなる。いっそそうなる前に。そうなる前に、このまま死んだ方が……」
 高耶は死の誘惑に囚われる。
 谷底をどこか焦点の合わない瞳で見詰め立ちつくす高耶に直江がようやく追いつく。
「高耶さんっ!!」
 近くから聞こえてきた直江の声に、高耶は驚いて振り向く。そこには直江が立っていた。荒い呼吸を繰り返す直江が立っていた。
「な…おえ?」
「高耶さ……」
「来るなっっ!」
 名を呼び近づいてこようとする直江に高耶は鋭く叫ぶ。
「来るんじゃない……」
 高耶の瞳から涙が溢れ出す。
「もう終わりにしよう?直江」
「え……」
 高耶のいいたいことがわからない直江は疑問の呟きを漏らす。
「終わりにしていいだろ?直江…オレは疲れたよ……」
「高耶さん……何を…?」
「景勝の……いや、譲のことは八海に聞けばいい。きっと全て話してくれる」
「何を言って…」
「オレは疲れたよ…直江。お前もオレを化け物と呼ぶんだろ?」
 どこか狂った微笑みを高耶が浮かべる。
「それとも、上杉のために利用するか?」
 直江は立ちつくす。
「そんなのは…嫌なんだ……」
 幸せな思い出だけを抱かせて。偽りでもいいから、あの温かさを奪わないで…
「さよなら…直江」
 高耶が崖に飛び込む。
「高耶さんっっ!!」


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