オオギタカヤと愉快な仲間たち(第21〜25話)


 直江の屋敷に辿り着き、その豪華なもてなしさえも、高耶さんの心を沈める原因になります。
 オレと直江は住んでいる世界が違うんだ……こんな家に住める直江はどう考えても上流階級の人間だろ?両親さえ知らず、森の中で一人魔物と言われて育った自分とは大違いだ。
 心はますます沈んでしまいます。
「高耶さん?」
 食事を済ませ、あてがわれた客室へ引き籠もってしまった高耶さんの部屋を、直江が尋ねます。
 直江も様子のおかしい高耶さんに気が付いていました。初めは旅の疲れが出て元気がないのかとも思っていた直江ですが、しばらくするとそうでないのがわかってきました。
 直江に視線を全く合わせないのです。この都に入ったときから高耶さんはずっと直江と視線を外したままなのです。出会ってから一度も高耶さんは直江と視線を外して会話をしたことがありませんでした。その真っ直ぐな視線の高耶さんに惹かれたといってもよい直江です。その不自然さに気が付くのは当然です。
「なんだ?」
 ノックの音に出てきた高耶さんですが、相変わらず視線は下を向いています。
「少しよいですか?」
 あまり高耶さんを刺激しないよう、本当はなんで視線を合わせないのか!?付いてきたのを後悔しているのか?と問いつめたいのを我慢して、当たりのよい声を出します。
「……」
 黙って高耶さんは扉を開きます。
 部屋の中に入って、高耶さんが扉を閉め近づいてくるのを待って直江は口を開きます。
「何かありましたか?」
「なんで?」
 呟くようにいう高耶さんに近づき、その肩に手を載せ顔を覗き込みます。
 肩に手が触れた瞬間のビクッと震える反応に傷つきながらも直江は優しく声をかけます。
「ずっと視線を合わせてくれない…」
「そんなことない」
 無表情に言う高耶さんに直江はさらにたたみかけます。
「私に付いてきたこと後悔してる?」
 その言葉には高耶さんは首を振ります。
「じゃあなにが…」
「何でもない!直江には関係ないだろ?」
 吐き捨てるような高耶さんの言葉に、その真意がわからない直江はカチンときます。
「関係なくないでしょう!?私は幻庵さんにもあなたのことを頼まれているんです!それに私があなたを都に来るように誘ったも同然だっ!だったら私にはあなたを心配する責任があるっ!!」
 直江の言葉に高耶さんもまた傷つきます。
「オレのことなんかほっとけよ!!どうせお前の目的はオレの力なんだろっ!それに幻庵爺に頼まれたからって義務感で側にいられても迷惑だ!!謙信公に会えて、美弥って奴目覚めさせたらどうせオレなんかお払い箱なんだろ!?見捨てるつもりなら最初から優しくなんかしなかったらよかったのにっ!」
 その言葉に直江も頭に血が上ります。
「どういう意味ですかっ!?美弥姫が目覚めたら俺との縁もそれまでということですかっ!?俺と一緒にいるのがそんなに嫌なのですかっ?」
 多少は心を開いてくれていると思っていた直江です。今の高耶さんの言葉に理性の糸が切れてしまいました。
 今まで一回も声を荒げたことのない直江の怒鳴り声に、高耶さんは竦み上がってしまいます。
 直江を怒らせた。嫌われた…。
 心の中はグチャグチャです。
「離しはしないっ!」
 腕を掴み無理矢理ベットまで引きずっていきます。
 高耶さんも抵抗しますが、直江は体格差に物を言わせ、抵抗を封じます。
 ドサッとベットの上に高耶さんを突き飛ばし、体でベットの上に押さえつけます。
「なっ…なに?」
 訳のわからない高耶さんは、混乱を隠しもせず直江を見やります。
「……ぅ…ん……」
 突然唇を塞がれます。
「愛してます…愛してるんです……」
 苦しげに囁く直江の声を高耶さんは耳元で聞きます。
 愛してる……?愛………?
 愛してるって…あの「愛してる」?本や物語りで出てきた愛してる?ずっと一緒にいたいって言う意味の愛してる?
「愛してるって…?」
 疑問を浮かべた瞳で高耶さんが直江を見詰めます。
「あなたのことを愛しています。あなたの側にいたい。あなたが森に帰りたいのなら、オレも付いていきます。あなたを離したくないっ!」
 高耶さんはじっと直江を見詰めます。
「ずっと一緒?」
「ええ。ずっと一緒にいたい!」
「本当?」
「本当です」
「ずっと一緒にいてくれる?オレが美弥って奴の呪いを解いても?」
「もちろんです。あなたが嫌でなかったら…ずっと一緒にいます」
「いたい。直江と一緒にいたい。離れたくない」
 高耶さんは自分の思いを言葉に乗せます。
「側にいさせて。オレだけを見て。オレ以外を見ないで」
 高耶さんは熱に浮かされたように呟きます。
 いつの間にか自由になっていた腕で直江の首筋に縋ります。
「あなただけです。俺がこんなに気になる人はあなただけです。あなたしかいない」
 直江も高耶さんの熱に当てられたように囁きます。
 そうして高耶さんの唇に、自分の唇を重ねます。
 初めは啄むように。次第に舐めるように。最後には、舌を暖かい高耶さんの口腔に忍ばせます。
「ふぅ…ぅ」
 初めてのことに高耶さんはなすがままです。直江の舌の動きに翻弄され、既に飲み込めなかった唾液が唇の端から流れ落ちています。
「っん!」
 直江の掌がすべらかな高耶さんの胸をなぞります。
 ゆったりとした部屋着に着替えていた高耶さんの服は、直江の掌の侵入の妨げにはなってくれません。
 見付けた突起を直江は執拗に責めます。次第にそれはプックリと起ち上がり、まるで舐めてと誘っているようです。その誘惑に直江が勝てるはずもありません。高耶さんを驚かさないよう、まず軽く舌で転がします。
「な…に?」
 訳のわからない高耶さんは直江を困惑の眼差しで見詰めます。
「愛し合いましょう?」
「え……?」
 直江は名残惜しげに一度顔を上げると、真摯に高耶さんに話します。
「愛し合っている恋人たちは皆こうして愛を確かめ合うんですよ」
「恋人…」
 その言葉に高耶さんは体中の血が沸騰するような恥ずかしさと、胸が暖かくなるような喜びを感じます。
「だから、私たちもこれから愛を確かめ合いましょう?」
「…うん」
 直江の言葉に高耶さんは小さく頷きます。
「オレはどうすればいい?」
 純粋に尋ねる高耶さんに直江はジリジリと理性という糸が焼き切れていく音を聞きました。
「高耶さんは横になっていてくれたらよいですよ。俺が教えてあげる」
 そういうと、直江は高耶さんの体中にキスの雨を降らせます。唇、項、爪先、掌、そして性的な刺激に起ち上がっている高耶さんのもの。
「ふぅ…んっ!」
 その刺激に高耶さんの体が跳ね上がります。
「や…なに……?」
 視線の先には高耶さんのものにキスをする直江がいました。そうして、器用に高耶さんのものを口に含み育てていきます。今まで森の中で暮らしていた高耶さんは、自慰をしたことがありません。誰も教えてくれませんでした。自慰さえも知らない高耶さんには、直江の口淫は過剰な刺激でした。
「んんん……っ!!」
 高耶さんは容易く煽られ、すぐに射精の欲求がやって来ました。
「や…っ離してっ!出る!出るって直江っ!!」
 必死に直江を引きはがそうとしますが、直江の頭はびくともしません。その上さらに口淫を激しくします。
「やぁあああ!!」
 ついに高耶さんは直江の口の中で果ててしまいました。
 初めての高耶さんは、それだけでグッタリとしてしまいます。けれど直江がそれだけで終われるはずもありません。
「ぇ…な……に?」
 どこから取り出したのか、直江は高耶さんの秘口にローションを垂らした指を擦りつけます。
「少し気持ち悪いかもしれませんが我慢して?」
 直江の言葉に、イマイチ状況の飲み込めない高耶さんは素直に頷きます。
「……ぅん」
 よく解らない感触に眉根を寄せながら、シーツを握りしめます。
 ツプっと指が一本侵入します。
「んん…」
 さらに増した違和感に、顔を顰めながらも高耶さんは我慢します。
 その指が、いたずらに内部をかき回します。その不快感は何とも言い様のないものでした。
 高耶さんの表情に、直江は少しでも楽にしてやろうと、キスをします。舌を絡め、それだけでイケそうなテクニックでもって高耶さんを翻弄します。
 高耶さんがキスに夢中になっている間に、指を一本一本増やしていき、三本の指を収めたところで唇を離します。
「ツライ?」
 眉根を寄せ、直江に縋り付いて違和感に耐えている高耶さんに尋ねます。
 けれど高耶さんは健気にも首を振ります。
「大丈夫」
「…少し我慢して……」
 そういうと直江は中で指を動かします。
「はぅん!!」
 今まで気持ち悪そうにしていた高耶さんの口から、快感を示す言葉が零れます。
「ここが気持ちいい?」
 囁きながら、直江は尚も執拗にそこを刺激します。
「んっっっ」
 口を引き結び声を出さないように耐える高耶さんですが、前は素直に起ち上がっています。
 直江はその前にも手を添え、高耶さんを追い上げます。
「んんん……っ!ぁぁあああ!!や―あ――っ!」
 高耶さんは二度目の絶頂を向かえてしまいました。
 追い上げられ、果てた体は弛緩して力も入りません。その隙に直江は高耶さんの両脚を持ち上げます。
「力を抜いていてください」
「あ…ああっ…!」
 指など比べものにならない巨大なものの侵入に高耶さんは瞳を見開きます。
 少しでも高耶さんの苦しみを和らげようと、前を刺激しながら一気に貫きます。
「ぁあっ!」
「すみません。辛いですか?」
 ギュッと直江にしがみつきながら、高耶さんは直江に「大丈夫…」と囁きます。
「もう少し、我慢してくださいね」
 そういって直江は腰を動かしはじめます。初めはゆっくり、次第に早く。その動きは激しくなっていきます。それに感じるどころではない高耶さんですが、今自分は直江とセックスしているんだという感動に打ち震えます。
 今まで以上に腰の動きが激しくなります。一際強く打ち付けられた瞬間、高耶さんの中に直江の精液が吐き出されていました。
「―――っ!!」
 衝撃に高耶さんは気を失ってしまいます。
 高耶さんの様子に直江は慌てますが、気を失っているだけなことがわかると、安心で溜息がこぼれ落ちます。
 直江は一息吐くと、まだ大きい自分のものを高耶さんの中からゆっくりと抜いていきます。
「うんん…」
 排泄物を出すような不快感に顔を顰める高耶さんに、軽くキスをします。
「高耶さん…少し待っていてください」
 聞こえていないのを承知で囁き、そのままでは高耶さんが気持ち悪いだろうと処理をしてやります。
 体をきれいにしてやってから、直江は高耶さんのベットの隣に潜り込みます。
「高耶さん――」
「うぅ…ん?……なおえ?」
 髪を梳きながら囁く直江の声に、高耶さんは目を開けます。
「気が付きましたか?」
「う…ん……オレ…どうして……」
 高耶さんはいまだ焦点の合わない視線を直江に向けます。
「気を失っていたんですよ」
「気を……って…あ……」
 高耶さんの頭の中には、直江の言葉に先ほどまで自分が直江としていたことが浮かんできます。
 そして直江も自分も裸なのに遅まきながら気が付きます。
 シーツの間から直江の肌が直接触れているのです。高耶さんは先ほどまでは感じなかった羞恥心が頭をもたげてきます。
 いそいそとシーツに顔を隠す高耶さんの手を、直江が止めます。
「高耶さん。私と一緒にいてくれると思っていいのですね?」
 直江は今一番自分が確認したいことを尋ねます。直江の心情は実はかなり切実です。高耶さんが直江とは一緒に居られないと言い出したら、直江は再起不能です。
「………うん」
 小さく高耶さんが返事をします。その言葉に直江の顔には喜色が浮かんできます。
「でも…直江迷惑じゃないのか?」
「そんなわけないです。私があなたと一緒にいたいのです」
 高耶さんの不安を、直江はキッパリハッキリ否定します。
「もしあなたが都ではなく森で暮らしたいと仰るのでしたら、私があなたと一緒に森に行きます」
「そんなっ!オレがこっちに来るよっ!」
 高耶さんは慌てて首を振ります。直江の屋敷は立派なものです。その屋敷の主人が直江です。これを見たら、いくら世間知らずの高耶さんでも直江がそれ相応の地位に着く人間だということがわかります。その直江を片田舎の森に連れて行くなんて、とんでもないことです。そんなこと申しわけなさすぎて直江にさせられません。
「後悔しませんか?都から森は遠いですよ?」
 直江は高耶さんの心情を思って、念を押します。
「いい!後悔しない!!どうせ幻庵爺は居ないし……」
 少し暗くなった高耶さんですが、大切なことを思い出します。
「小太郎は連れてきていいかっ!?」
 小太郎は高耶さんが物心つく前から一緒にいる大切な相棒です。高耶さんは直江に必死な顔で尋ねます。
 実際のところ直江としては、小姑が付いてくるようで、小太郎を連れてくるのは嫌なのですが、それでは高耶さんがかわいそうです。内心は多少苦々しく思いながらも、表面上にこやかに「構いませんよ」と答えます。
「そっか…よかった……」
 目に見えて安心する高耶さんに、直江は小太郎に対しての嫉妬を覚えますが、これも高耶さんのため、自分の中で折り合いを付けます。
「では、明日謙信公に会って全てが片づいたら森に一度戻りましょう?」
「うん」
 頷く高耶さんに直江は、「そうと決まれば、ゆっくり休んでください」と言い、シーツを掛けてやります。
 直江の髪を梳く感触に眠気を誘われ、高耶さんはすぐに眠りの世界に引き込まれていきます。
 直江もしばらく高耶さんの寝顔を見ているうちに、いつの間にか眠りについてしまっていました。


「おはようございます」
 直江は目が覚めても高耶さんの寝顔を眺めていました。
 眺め初めて数時間、ようやく高耶さんの瞳が開きます。
「おは…よ……」
「よく眠れましたか?」
「……うん」
 高耶さんは眠たい目を擦りながら、直江を見ます。まだ目が覚めたばかりで視界が霞んでいます。
「着替えを用意させますね」
 旅装束の着た切り雀だった高耶さんです。さすがに王宮にはそのままでは参内できません。直江は到着後すぐに高耶さんの洋服を用意させていました。
「ありがと」
 直江は体を起こそうとする高耶さんに手を貸しながら、髪の毛を整えてあげます。癖のない髪の毛は手櫛で整えるだけで充分です。
「食事を運ばせますので、待っていてくださいね」
「……うん」
 直江は高耶さんの横を抜け出し、使用人を呼ぶベルを鳴らします。
「ご用でしょうか?」
「食事の用意と高耶さんの服を持ってきてくれ」
「かしこまりました」
 直江は用件を伝え、また高耶さんのいるベットまで戻ります。
 戻ると、高耶さんはベットから抜け出していました。高耶さんは体が少し辛そうです。
「体は大丈夫ですか?」
「多分…ちょっと怠いかな?」
 腰から下が怠い感じです。座っておくのが辛そうな感じです。
「無理しなくてよいですよ」
「私のせいですし」というのは心の中だけで呟きます。
「大丈夫」
 高耶さんは笑うと、顔を洗うため洗面所へ移動します。
 顔を洗いスッキリしたところで、食事が運ばれてきました。
「そこに並べてくれ」
 直江は顎で視線の先にあるテーブルを示します。
 それに使用人は従順に従い、食事の皿を並べていきます。
 そこに並べられた食事は、朝から豪華なものでした。メニューは食べやすい物ですが、並べられた食材が、都では高級といわれる物ばかりでした。
「服もこちらにご用意させていただきました」
 そういっていくつかの服を直江に見せ、クローゼットに収納していきます。その数は高耶さんからすれば無駄に多いものでした。
「おい…直江……」
 高耶さんの言葉には非難が含まれていました。
「オレのためにそんなにわざわざ相違する必要ないぞ?」
 言う高耶さんに直江は笑って言います。
「私がしたいのです。高耶さんは気にしなくてよいですよ」
「でも…」
「席について下さい。食事が冷えてしまいますよ」
 少し不満げな高耶さんを直江は急かします。
「あ…ああ」
 食べ物を粗末に出来ない高耶さんは、直江に促されるまま椅子に座ります。
 高耶さんが座ったのを確認して、直江も座ります。
「食べ終わったら呼ぶから下がっていてくれ」
 直江はそばに侍っていた使用人に言い、出ていくのを確認してから、「食べましょう?」と高耶さんを促し、食事を始めます。


 食事が終わったら次は着替えです。予定では朝一番に謙信公に参内することになっています。
「高耶さん。こちらに着替えて下さい」
 直江が出してきたのは、高耶さんが今まで一度も着たことがないような服でした。
「王宮に参内するには相応の服装でないとまずいので…」
 戸惑う高耶さんを後押しする意味も込めて直江は言います。
「わかったけど…」
 少し迷ったあと承諾する高耶さんですが、何か言いたげに直江を見詰めます。
「どうしました?」
 高耶さんの言いたいことが察せられない直江は、高耶さんを促します。
「その……着替える間、向こうに行っていてくれないか?」
 言いにくそうにモゴモゴと切り出します。何だか少し頬も紅くなっているようです。
「……」
 その言葉に直江は驚いてしまいますが、「あぁ」と納得します。着替えを見られるのが恥ずかしい、ということなのでしょう。
「わかりました。それでは、私も着替えてきますので、この部屋で着替え終わったら待っておいて下さい」
「ん……」
 頷く高耶さんに、直江は自室へ戻っていきます。


「謙信公。直江様が参内なさっています。公にお目通りしたいそうですがどうなさいますか?」
 宰相の地位につく腹心の部下である色部が、公務中の謙信公に報告します。
「会おう」
 謁見の間に通すよう指示し、自分も移動の準備を始めます。


 謙信公が謁見の間に着くと、既に直江は膝を着き待っていました。しかし、その直江の横には謙信の見知らぬ少年がいました。
「よく帰ってまいった」
 玉座に着き、ひとまず自分の姪の美弥のために旅へ出ていた直江にねぎらいの言葉を掛けます。
「いえ。臣下として当然のことをしたまでです」
「そっちは…?」
 先ほどから気になっていた人物について謙信公は尋ねます。
「こちらは高耶さんと言って、件の森に住んでいた方です。今回とある人物の言葉より、謙信公にお引き合わせするためにお連れしました」
 高耶さんは謙信の促しに頭を上げ、「高耶と申します」と名乗ります。
「高耶と言ったか?とある人物とは誰のことだ?」
 全く心当たりのない謙信公は尋ねますが、その謙信公に直江は「謙信公。人払いを…」と頼みます。
 直江を信頼している謙信は、その言葉に全ての兵や臣下を下がらせます。
「これでいいのか?」
「はい」
 直江は自分でも周囲を一度見回し、大きく頷きます。
「私は美弥姫の呪いを解くためとある森に向かいました」
 謙信公にどのように相対していいのか戸惑っている高耶さんの様子に、直江が代わりに説明をはじめます。
「そこで、ここにいる高耶さんに出会いました。そして、高耶さんに案内してもらい幻庵、という人物に会ってきました」
 その言葉を聞いた瞬間、謙信公の顔に動揺が走ります。
「幻庵っ!?」
 いまだかつて忘れたことのない名でした。それは、幼子と一緒に行方不明になってしまった友の名でした。
「ええ、幻庵殿です。そこでお会いした幻庵殿は一冊のノートを残されて消えてしまいました。そのノートの末尾に、謙信公に会いに行くように、とこちらの高耶さん宛に書かれていたんです」
 高耶さんに視線をやりながら直江が言います。その視線につられて、謙信も高耶さんに視線を向けます。
「高耶…に?」
 

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